蘇芳と架。暴力表現・近親相姦・その他諸々注意です。
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――どれくらい、経ったのだろう。
静寂に支配されたはずの部屋は、ぱん、ぱん、と肌を打ち合う不可解な音や、それと混じり合う水音に犯されていた。
「ち、ち、う、え、」
「……っ、」
「は、あ、あっ、あ、」
――分からない。この行為が何を意味するのか。
「あっ……ああああっ!!」
もう何度目か分からない限界だった。下から突かれるような律動に何度も、何度も身体を揺さぶられ、俺はその度に情けなくも、嬌声を上げた。
本当に分からない。ただ……ただただ、身体の奥、芯のような部分でずくりと何度も湧き上がる快楽に、俺はとうの昔に思考することを放り投げていた。
「っ、あ……あっ……」
胎の内側に注がれる熱が、妙に心地よくて、変な気分になる。何か――これまでの常識や価値観が解けそうな感覚というのか。もう、すべてがどうでもよくなってきて、このまま一生浸っていたいような、そんな、人間として駄目になるような気分だった。
「……」
「……父、上……?」
いつの間にか止まっていた動きに違和感を感じ、眼前の父上に問いかけたが、うまく回らない呂律のせいでちゃんと出来たのか分からなかった。不安になって、投げ出したままだった腕を伸ばして、父上の汗ばんだ胸に触れる。すると父上は、まるで急に動き出した機械人形のように身体を揺らした。
「……うっ、あ……」
呻き声が聞こえたと思うと、ぽたりと生温い何かが降ってきた。なんだろう、これは。ぼんやりとする思考を必死に動かしていると、またぽたりと降ってきた。
――これは、涙……?
「……萌黄……」
答えを得た瞬間だった。嗚咽混じりに吐き出された声。涙を流していたのは、父上だった。
「萌黄……もえ、ぎ……」
父上の伝いきれなかった涙がぽたり、ぽたりと降っては、代わりに俺の頬を流れる。
――どうして、泣いているのだろう。それに、さっきから父上は何を言っているのだろう。どこかで聞いたことのある言葉のような気がするのだが、それでいて聞き慣れないもので、俺は困り果てていた。
「…………泣かない、で」
とにかく涙を拭おうと、俺は父上の顔へ手を伸ばした。目尻に溜まった涙をそっと拭うと、父上は安堵したような表情を浮かべる。笑みとは言い難いそれに、俺は、なんて不器用な人なんだろう、と思った。
「萌黄……」
「……!」
そこで俺はようやく思い出した。『萌黄』――それは、俺の生みの母の名だ。俺を産んですぐに亡くなったらしい母の名を、父上は愛おしそうに、何度も何度も呼んだ。
――俺は、それに答えることが出来なかった。出来るわけがなかった。写真でしか姿を知らない母の面影を求められても、俺はそんな人知らないから。
俺は、俺は――母上には、なれない。
「っ……父上……俺は……」
気付いた時には、自分の名を口にしていた。しまった、と思った時にはもう遅かった。おそるおそる父上の顔を見ると、父上は目を見開いて、そしてすぐに硬い表情に戻った。
冷たい、能面のような表情に、恐怖で背筋が強張る。
「――なら、どうして……俺を置いていった……? お前まで私を一人にするのか?!」
「あっ!!」
父上の怒号とともに叩きつけられた衝撃に、俺の身体は反射的に跳ねた。そのままぱん、ぱん、と何度も肌を打ち付けられ、短い周期的な動きに喘ぐ喉が締まりそうで、苦しくて、俺はたまらず父上の胸を叩いた。
「ち、……う、えっ……やっ、めてくだ、あっ、あ、あっ!!」
「黙れ!」
両腕をベッドに叩きつけられたと思うと同時に、気道が締まって、すぐに首を絞められたことに気付いた。父上の腕を引き剥がそうと、両手で掴んでみるが、それが気に入らなかったのか、ますます腕に力を込められてしまう。
「っ、う、っく……はっ……あ……」
全体重を使ってかけられる圧に、押し潰されそうだった。
―苦しい、痛い、息が、出来ない。
朦朧とする意識の中で、俺は、もうどうすればいいのか分からなかった。俺はこのまま死ぬのだろうか。こんなところで、誰も、救えないまま――。
「っ…………ゆ…………」
最後の力を振り絞って、俺はもうどこにもいない『あいつ』に、手を伸ばした。
……ここで、いっそ死ねるなら。それはそれで、本望だった。俺が、俺がいたせいで、命を落としてしまった『あいつ』に、少しでも報いることが出来るのなら――もう、どうでもよかった。
