某所で投下させてもらったハルまふの遊郭パロです。

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 紅葉よりも明るい緋色の格子戸の奥に、彼女はいた。
 金を張り巡らせた繊細な髪飾りを髪に差し、白い肌を燃やすような真紅の着物を纏った彼女は、今日も静かに客が来るのを待っている。
 しゃらん、と弦を弾く柔い音が辺りに響く。その優しくも、蠱惑的な音を耳にするたび、俺は静かに絶望し続ける。
 ああ、あの人は今日も、誰かにその身を開くのか、と。
 ……分かっている。あの人は、彼女達は、それが生業なのだと。己が身を鉾に、盾となる財産を得るのだ。
 女は男に、身を売る。男は女に、金を売る。
 それが、この町での常識――いや、世界なのだ。この町は、それで成り立っている。
「はる、手止まってるで」
 此の店の物であり、華でもある彼女に見惚れていると、先達が怪訝な顔で注意してきた。
「……すみません」
 一言謝ると、先達はふん、と大きな鼻息を鳴らして町の門へと続く通りへ姿を消した。
 ……手、か。そうだ。俺は、客を待つ彼女達に、仕事をさせる為に存在している。間違っても、俺が彼女達――あの人の客になるなど、あってはいけない。……いいや、無くて当たり前なのだ。
 そんな金など、何処にもありもしないのだから。

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「ねえ、はる。あたし、外に出てみたいわ」
 真っ白な布の上に、彼岸の髪を散らす彼女は薄く微笑みながら、絵空事を奏でる。
 彼女の言う『外』がなんなのか。俺は、肌を重ねた数だけ知っていた。
「……冬は、いつもそう言うよな」
 無理だって、誰よりもわかってるくせに。言外にそう込めて口にすると、彼女はつまらなさそうに艶やかに着飾った顔を歪める。
「貴男なら、連れて行ってくれると思ってたのに」
 冬はそう言うと、縫い止められた手を無理矢理引き剥がそうとした。
「冬、」
 駄目だ、まだ終わってない。だから、逃がさない。身体を突き動かすと、紅色で染めた薄いくちびるから甘い声が漏れる。は、と苦しい息遣いが耳を突いたが、構わず彼女の奥を目指した。
 嫌だ、行かないでくれ。そう、己の欲望を乗せて、彼女の願いを突き破る。
「やっ、は、る、」
「ふゆ、ふゆっ……!」
 もう少しなんだ。あと少しで、君を外に出してあげられるんだ。その、はずなんだ。
「あ、っ……あぁ、」
 もう少しだ。君を殺さず、俺も生きて、こんな町から出る方法。
「…………ふゆ、」
 だから、待っていてくれ。あと少しだけ。君の、許せる限り。
 
 ……そう祈って、俺は、今日も彼女と、一線を越え続ける。
 分かっているのだ。こんなことを続けていては、彼女の願いを叶える時間が減ってしまうことを。
 それでも俺は、身体を、罪を、重ねずにはいられない。彼女が、願うたび。其処には必ず、俺がいる。
 ――俺しか、いないのだ。
 そう思う為だけに、俺は何度だって、犯してしまう。
 嫌だ。他の誰かに、あいつに、祈らないでくれ。俺はもうとっくに、君の為に生きると決めてしまったのだから。そんな俺のちっぽけで、大切な時間を、他の誰かに奪われたくなんてない。踏みにじられたくない。
 君には、俺しかいないんだ。
 俺には、君しかいないんだ。
 そう、在ってほしい。在ってくれなきゃ困る。
 だから、
「……ふゆ、逃げよう、いつか……」
 二人で。君の思う『外』に、一緒に行こう。